フリーランスエンジニア

フリーランスエンジニアの契約形態|請負契約と準委任契約の違いをわかりやすく解説

承認された契約書

フリーランスになると法律上の扱いが会社員とは違うらしいんだけど、難しくてよくわからない…。

こんな悩みにお答えします。

会社員をやめてフリーランスエンジニアになると法律上の契約形態が変わります。

ネット上で調べると解説記事がたくさん出てきますが、難しい法律用語が多くて何が何だかわからないという人も多いでしょう。

この記事では現役のフリーランスエンジニアである僕が、請負契約と準委任契約の違いを、フリーランスエンジニアとして働くにあたって必要な知識にしぼってわかりやすく解説していきます。

会社員エンジニアの契約形態

パソコンに向かって仕事をする女性

フリーランスエンジニアの契約形態を見ていく前に、まずは会社員とフリーランスの違いを確認しておきましょう。

ここではわかりやすいように「会社員」という言葉でひとまとめにしていますが、誰かに雇われて働くような働き方には以下のような形態があります。

  • 正社員
  • 契約社員
  • 派遣社員
  • パートタイム労働者(アルバイト)

このように誰かに雇用されて働く場合には、労働基準法という法律に基づいて雇用者と労働者の間で労働契約を結びます。

労働基準法は雇用者に比べて立場が弱い傾向にある労働者を保護するための法律で、たとえば以下のような項目に関するルールが定められています。

  • 労働時間
  • 賃金の支払い
  • 休暇
  • 労災
  • 就業規則

なぜか日本では蔑ろにされがちな労働基準法ですが、本来はこの法律によって労働者の適切な雇用が守られるのです。

一方で、フリーランスエンジニアとして働く場合には上記の内容には当てはまりません。

フリーランスの場合は誰かに雇われるわけではないため、労働契約ではなく以下のどちらかの契約に基づいて仕事をすることになります。

  • 請負契約
  • 準委任契約

どちらの契約も「約束した仕事をこなすことでそれに対して報酬の支払いを受ける」という点では同じですが、報酬が支払われるときの判断基準や受託者が負う責任には違いがあります。

以下でそれぞれを詳しく見ていきましょう。

フリーランスエンジニアの契約形態

様々なデータ

先に書いたとおり、フリーランスとして働くときは仕事の発注者との間に労働契約ではなく請負契約、もしくは準委任契約を結んで仕事をすることになります。

まずはそれぞれの契約の特徴を確認しましょう。

請負契約とは

請負契約とは、成果物の完成を約束する契約のことです。

発注者から「⚪︎⚪︎円払うから、△△までにこういうアプリを作ってほしい」と頼まれるようなケースがこれにあたります。

無事に成果物を完成させることができれば、それに対して報酬の支払いを受けることができます。

対価の支払い基準はあくまで「成果物を完成させることができたかどうか」ということなので、期日までに成果物が完成してさえいればそれまでの過程は問われません。

たとえば半年後に納品することを約束した仕事を1ヶ月で完成させることができれば、あとの5ヶ月間は一切仕事をせずに遊んでいたとしても最初に約束した報酬をもらえるということです。

一般的な「フリーランス」のイメージと言えばこれでしょうか。

TOM
TOM

準委任契約とは

準委任契約とは、労働力の提供を約束する契約のことです。

これは依頼主から「今日から⚪︎ヶ月間、このシステムの開発を手伝ってほしい」と頼まれるようなケースです。

準委任契約の場合には、期間内に成果物が完成したかどうかは問われません。

決められた時間働いたのであれば、仕事の進捗とは関係なく報酬を受け取ることができます。

近年では民法の改正によって成果物の引き渡しに対して報酬を支払うタイプの準委任契約ができるようになっていますが、これも「できた分を引き渡してくれれば、その分の報酬を支払う」というものであって、成果物が完成しているかどうかは問われません。

こちらはフリーランスとは言っても、どちらかというと会社員に近い働き方だと言えるでしょう。

僕はこの契約形態でフリーランスエンジニアとして働いています。

TOM
TOM

請負契約と準委任契約の違い

似ているけれど違うものの比較

以下では請負契約と準委任契約の違いを、項目別に比較する形で解説していきます。

成果物の完成義務

請負契約準委任契約
ありなし

請負契約の場合は成果物を完成させることを約束する契約ですから、当然、受注者には成果物を完成させる義務が発生します。

この義務は細かく見ると以下の二つの要素に分けられます。

  • 期限までに成果物が納品されること
  • 納品された成果物に問題がないこと

受注者は約束した期限までに成果物を完成させて納品しなければならず、これができなかったために発注者に迷惑をかけてしまった場合には損害の賠償を請求される可能性があります(これを債務不履行責任といいます)。

また、期限までに成果物を納品できた場合でも、その成果物に何らかの問題があった場合には受注者が責任を負うことになり、以下のような対応をとられる可能性があります(これを契約不適合責任といいます)。

  • 問題の修正を求められる
  • 報酬を減額される
  • 損害賠償を請求される
  • 契約を解除される

エンジニアとして働く場合には「納品したプログラムにバグが見つかって、その修正を求められる」というケースが最も多いでしょう。

一方で、準委任契約の場合は働くこと自体が契約の目的なので、成果物が完成したかどうかは問題になりません。

たとえ期間内に成果物が完成しなくても、たとえ完成したものに多少の問題があっても、それについて損害賠償を求められたりするようなことはないわけです。

この場合でも契約さえしてしまえばあとは何もせずに過ごしていいということではなく、常識的に考えて問題のない範囲で真面目に仕事をする必要はあります(これを善管注意義務といいます)。

進捗状況の報告義務

請負契約準委任契約
なしあり

準委任契約の場合は発注者から求めがあれば作業の進捗状況などを報告する必要があります。

求められる内容は現場によりけりですが、システムエンジニアの場合はせいぜい以下のようなものでしょう。

  • 作業時間
  • その日に行った作業
  • スケジュールに対する進捗

特に作業時間については報酬支払いの判断基準となるため、必ず何らかの形で記録・報告をすることになると思います。

一方で、請負契約の場合は契約時に特別な取り決めをしていない限りこのような報告義務は発生しません。

再委託の可否

請負契約準委任契約
できるできない

再委託とは、受注者が受注した仕事をさらに別の人に発注することです。

受注した仕事の一部が難しすぎて手に負えなかったり、忙しくて手が回らなくなってしまった場合に他の人に依頼して手伝ってもらうようなケースですね。

請負契約の場合は再委託が認められているのに対して、準委任契約の場合は認められていません。

ただしこれはあくまで原則、つまり契約で定めていない場合のルールがこうなっているというだけであって、通常は契約内容に独自のルールが盛り込まれています。

再委託が行われると機密事項の漏洩などのリスクがあるため、どちらの契約形態であっても「発注者の合意がある場合のみ再委託ができる」という契約になっているのが一般的です。

発注者からの契約の解除

請負契約準委任契約
損害賠償が必要いつでも可能

最初に想定していた期間の途中で発注者側が契約を解除しようとした場合の違いです。

請負契約は成果物の引き渡しによって報酬が発生する契約なので、途中で契約を解除されてしまうと受注者は中途半端に作業だけさせられて報酬はもらえない…ということになってしまいます。

このような問題が起きることを防ぐため、請負契約における発注者が契約を解除しようとする場合には受注者に対して損害を賠償する必要があります。

一方で、準委任契約の場合は作業そのものに対して報酬が発生するため、それまでに行った作業に対する報酬を支払いさえすれば契約を解除すること自体は問題になりません。

いつでも好きなときに契約を解除することができます。

実際には、何の連絡もなく突然現場に来なくなるとか、全くコミュニケーションがとれない…みたいな極端なことがない限り突然契約を解除されてしまうようなことはありませんけどね。

TOM
TOM

まとめ

ここまでの内容を整理すると以下のとおりとなります。

請負契約準委任契約
成果物の完成義務ありなし
進捗状況の報告義務なしあり
再委託の可否できるできない
発注者からの契約の解除損害賠償が必要いつでも可能

請負契約と準委任契約のメリット・デメリット

メリットとデメリットの比較

請負契約と準委任契約にはその性質の違いからさまざまなメリット・デメリットがあります。

一つずつ解説していくので、それぞれの点についてどちら働き方のほうが自分に合っているのか考えてみてください。

請負契約のメリット

スキル次第では効率よく稼げる

先述したとおり、請負契約においては成果物が完成しさえすれば、それにどれだけの時間や労力をかけたかは問題になりません。

あなたが他の人よりも高いスキルをもっていれば、たとえば普通は2ヶ月かけて完成させるような仕事を半分の1ヶ月で仕上げることができたりするわけで、これは普通の人が2ヶ月かけて稼ぐ報酬を1ヶ月で稼ぐことができるということに他なりません。

このように、高いスキルをもっている人であれば普通の人と比べて仕事の完成に必要な時間や労力が少なくて済むため、相対的に高い時間単価で働くことができるということになります。

スケジューリングの自由度が高い

請負契約においてはいつ、どれくらい働くのかが受託者に一任されているので、仕事のペース配分も全て自分で決めることができます。

納品までの期間をフルに使って計画的に作業を進めてもいいですし、早めに仕上げてしまって残りの期間は休暇にするのもOKです。

このように仕事のスケジュールを自分で自由に調整できるので、複数の仕事を受注して並行して進めたり、プライベートの予定を優先してスケジュールを組むといったことがしやすいのです。

請負契約のデメリット

高いスキルが必要

請負契約を結ぶ場合には、自分一人で成果物の完成に責任を負うことになります。

そのため、仕事の途中で技術的なトラブルなどが発生した場合でも、なんとか自分で解決して完成まで漕ぎ着けることができるだけの高いスキルが必要になります。

約束した期限までに成果物を納品できなかったり、納品したものに欠陥があったために相手に迷惑をかけてしまったような場合には損害の賠償を求められる可能性も…。

プロとして仕事を受けている以上は「よくわからなかったのでできませんでした」ということは許されないのです。

また、たとえばスキル不足が原因で成果物の完成に想定の2倍の時間がかかったとしても、その苦労に対して追加の報酬が支払われることはありません。

そうなると、実質的には当初の想定の半分の時間単価で働いたことになってしまいます。

契約の難易度が高い

請負契約は成果物の完成を約束する契約ですから、契約を結ぶ際には「何をもって成果物の完成とするのか」を詳細に取り決めておく必要があります。

契約はお互いの責任範囲を明確にするものですから、ここがあいまいなまま仕事を始めてしまうと、後になって作業の区切りや報酬の支払いについてクライアントと揉めることになってしまいます。

システム開発におけるトラブルの例

  • 報酬は変わらないまま、何度も仕様変更を要求された
  • 成果物が想定していたものと違うと言われ、報酬の支払いを拒否された

また、クライアントが契約に長けた企業である場合、よく注意していないといつの間にかこちらに不利な契約を結ばされていた…というようなことにもなりかねません。

仕事の獲得に営業力が必要

請負契約で仕事を受注する場合、主に以下のような方法で仕事を探すことになります。

  • クラウドソーシング
  • 自分のSNSからの依頼
  • 人づての紹介

いずれも待ってさえいれば向こうから仕事が舞い込んでくるようなものではないため、自分から積極的に見込み顧客に対してアプローチをしていく必要があります。

条件がいい案件を獲得できるかどうかも営業力にかかってくるため、ここが苦手だとフリーランスになったとしてもあまり美味しい思いはできないかもしれません。

準委任契約のメリット

基礎的なスキルがあれば働ける

準委任契約でも案件によって求められるスキルは様々ですが、基礎的なシステム開発を経験している人なら問題なくこなせるような簡単なものも多く存在します。

僕が初めて携わった案件も、基礎的なC#とSQLの知識があればこなせるような簡単なものでした。

TOM
TOM

また、準委任契約の場合は請負契約で働くときのように最初に約束した成果物を完璧に仕上げる義務もないため、スキル不足が原因で損害賠償を請求されるよなリスクを心配する必要もありません。

初めてフリーランスになる人でもチャレンジしやすい契約形態と言えるでしょう。

契約がシンプル

準委任契約は労働力の提供そのものを約束する契約であるため、決めるのは労働時間ぐらいのもので成果物に関する細かい取り決めは行いません。

そのため契約内容がシンプルでわかりやすく、契約内容をめぐってトラブルになるような心配も少ないというメリットがあります。

エージェントを使って仕事を獲得できる

準委任契約の案件を探す場合は、請負契約の説明で紹介した方法に加えてエージェントを使うという方法があります。

案件探しから契約、働き始めたあとのサポートまで全て無料でお願いすることができるので、特に初めてフリーランスエンジニアに挑戦する人にとっては有力な選択肢です。

以下の記事では僕が初めてエージェントを使ってフリーランスエンジニアになったときの体験談を紹介しています。

あわせて読みたい

準委任契約のデメリット

フリーランス初心者におすすめの準委任契約ですが、唯一最大のデメリットは「フリーランス」という言葉からイメージされるような自由な働き方はできないということです。

すでに書いたとおり、準委任契約は一定時間の労働を約束する契約です。

契約するときは「月間⚪︎⚪︎時間」のように月単位の労働時間を決めるので「何時から何時まで」という取り決めはありません。

建前上は約束した月間労働時間を満たせばいつ働いてもかまわないということになりますが、実際には現場の人たちと一緒に働くわけですから、クライアント企業の就業時間に合わせて働くことになる場合がほとんどです。

一般的な会社員と同じような勤務形態になるため、自由度も会社員とほとんど変わりません。

それでも案件を変えるときに長期休暇を取ったりできる点では会社員より自由ですけどね。

TOM
TOM

初めてフリーランスエンジニアになりたい人には準委任契約がおすすめ

新天地を目指す人

ここまで請負契約と準委任契約の違いやメリット・デメリットを解説してきましたが、どのように感じられたでしょうか。

自由に働けるかわりに自分一人で大きな責任を負わなければならない…という一般的なフリーランスのイメージが強く、フリーランスでありながら会社員に近い働き方ができる準委任契約については知らなかったという人も多いかと思います。

実は過去の僕もまさにそうで、準委任契約という働き方を知ったからこそフリーランスになることを考えられるようになり、今実際にフリーランスエンジニアとして働いています。

エージェント経由で準委任契約の案件に入るのであれば会社員からフリーランスになるハードルは無いに等しいので、興味がある人はぜひチャレンジしてみてください。

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